視点ABC(第一回かぐやSFコンテスト選外佳作)

 あれは2020年7月のこと。ゲンロンSF創作講座の最終実作が書けねえ~~~~~~と唸っていたら、いつのまにか第一回かぐやSFコンテストに応募していました。“未来の学校”をテーマにした、SFショートショートのコンテストです。最優秀作品は英語と中国語に翻訳してウェブ上に掲載されます。イラストもつくし副賞もあります。すごい。

 応募した「視点ABC」は、残念ながら最終候補には選ばれなかったものの、選外佳作として審査員の井上彼方さん・審査員長の橋本輝幸さんのHonorable Mentionリストに挙げていただきました(やったね!)。なので、こちらで作品を公開します。楽しんでいただけると幸いです。

 また、最終候補に選ばれて現在公開中の11作品も、他の選外佳作も(すべては読めていませんが)いろんなSFがあって面白かったので、そちらも読んでみてはいかがでしょうか。コンテストの最終結果は【8/15(土)】に発表されるとのことです。

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視点ABC

 Aさんがこの学校を選んだ最大の理由は、その自由な校風にあった。日本の高校にしては校則が緩く、なんでも好きな格好ができるというのだ。どんな服装でもどんな髪型でもどんな爪の色でも、完全に個人の自由だと。

 おしゃれ好きのAさんは、入学するとすぐに日々のファッションを楽しむようになった。おこづかいをやりくりして、毎日気合いの入った自分らしさあふれる格好で登校した。金欠のときには、マンネリ感のない着回しを研究したり、友達とアイテムを交換したり、思い切って自作に挑戦してみたりと工夫を重ねた。いつだって手鏡を持ち歩いていて、つねに身だしなみに気を遣っていた。

 ところが入学してからしばらく経つと、自由な校風という評判はすこしばかり誇張されたものだとわかってきた。高校の授業にも慣れてきた初夏のこと、ものはためしに実世界換算で5メートルほどの身長になるアバターを素直に事前申請したらリジェクトされてしまったのだ。先生の説明によると、校舎のモデルがほぼ実寸に近いため、極端に大きなアバターだと天井や壁と干渉して身動きがとれなくなってしまうのだという。言われてみればもっともな話だ。制約は他にもあって、あまり計算量の大きいアバターでサーバに負荷を与えるなだの、スポンサーの競合他社となるブランドは非推奨だの、学校運営上の事情がいろいろとあるようだった。要するに「なんでも好きな格好ができる」というわけではなかった。

 めげずにAさんは自分の見た目を追求しつづけた。先日はシルバーグレーのシャツを着て黒髪を後ろで束ね、ついでにカイゼル髭を生やしてみた。その前は、緑のドレスとゆるくパーマをあてた赤髪でどこぞの人魚姫っぽさを演出してみた。詰襟の学生服に坊主頭でストイックに仕上げた日もある。後頭部を撫でたときの触感のフィードバックがクラスメイトに好評だった。友達から自分の格好を褒められることはあまりなく、むしろ驚かれたり呆れられることのほうが多かったけれど、それでも周りから注目されるだけでAさんにとっては大満足だった。

 そんな目立ちたがり屋のAさんだったから、クラスでひとりだけ、自分にまったく興味を示さない子がいるのにも早くから気づいていた。興味がないというか、まったくこちらが見えていないという感じ。いや、自分だけではなく、他のどの生徒のこともまるで見えていないような。

 呼びかければ返事はあるから、どうやらミュートされてるわけではなさそうだけど。

 それでも最近、Aさんはその子のことが気になってしかたがないのであった。

 

 Bさんは実際のところ、クラスメイトAさんの個性的な格好どころかAさんの存在自体が見えていなかった。また、Aさんだけではなく、他の生徒の姿も誰一人として捉えてはいなかった。

 Bさんの視界では、学校は海に沈んだ廃墟になっていた。藻類が揺れ、深海魚がときおり通り過ぎる。水母のような光源がところどころに浮いており、教室前方のスクリーンだけはよく見える。教室には金属製の潜水服を身につけた自分ひとりだけが存在し、他には誰もいない。このように、深い青に包まれた教室にひとりぼっちでいると、勉強にすこぶる集中できるのだ。

 この排他的な視界は、Bさんが常用している潜水服アバターの、大きなヘルメットの窓に映し出されている。あくまでそういう映像が投影されるデザインの服装であり、けっして他の生徒のアバターを上書きして存在を抹消しているわけではない。そのようにBさんは事前申請時に主張しており、その主張は今のところ受け入れられている。潜水服アバターはBさん本人にしか見えず、周りからは当たり障りのない表情をした当たり障りのない服装のアバターが表示されている。

 音声情報も徹底している。誰かから話しかけられたとき、その声は水中を漂う深海魚から発せられたかのように変換されている。これも勉強に集中するための雰囲気づくりの一環でありけっしてクラスメイトの姿を深海魚に変えているわけではない位置情報が全然違っているし実際の人間とオブジェクトとが一対一で対応しているわけでもないじゃないかそういうデザインの服なんだこれは人権侵害ではないとBさんは入学以来ずっと主張している。

 だからBさんはクラスメイトAさんの個性的なアバターを一度も見たことがない。深海魚たちの話によるとどうやら日替わりで異なるファッションを楽しんでいるらしいが、Bさんにはその楽しさがまったく理解できない。そもそもAさんとも、誰ともつるみたくなんかない。

 そんな堅物のBさんにとって、悩みの種となっている人物がひとりいる。それは担任の先生だ。自分が構築した深海の教室で、なぜかその先生だけはそのままの姿で視界に映ってしまうのだ。周りの風景から浮いているどころか、ヘルメットを突き抜け、重畳遠近法をガン無視して視界に入ってくる。声も深海魚にならない。邪魔すぎる。

 おそらく教師のほうがサーバ上の権限が強いからそのように表示されているのだと思われるが、それにしてもどうしてこの先生だけ。これじゃあちっとも集中できない。

 担任の先生が受けもつ数学の授業中、Bさんはずっと先生を睨みつづけている。敵意をふんだんに込めた視線がヘルメットの内側から照射される。しかし外側から見たBさんのアバターは、相変わらず当たり障りのない表情をしている。

 

 C先生が教師になってから実に四十年が経ったが、近頃の教育環境にはとてもじゃないがついていけないというのが正直な思いだった。

 オンラインには賛成だ。バーチャル空間での授業もまあいいだろう。与えられた見た目による束縛から解放されることも重要だと思う。だが、教師が生徒の顔を見られないというのはどうなのか。それはものを教えるうえで非常に問題があるのではないか。アバター同士で見せたい姿だけを相手に見せて、はたしてそれで本当にコミュニケーションできていると言えるのか。

 それとも、これももう古い考え方なのか。みんなコミュニケーションの新様式に適応できていて、自分のような老人だけが取り残されているのだろうか。そう、C先生は毎晩悩んでいる。

 とはいえC先生にできることは、せいぜいクラス担任という権限を存分に利用することくらいだ。

 まず、自分のアバターは現実の自分そのものに極限まで近づけ、全身の動き、表情、視線、その他非言語的なメッセージの何もかもを正確にそのまま出力するようにする。すくなくとも自分の放つメッセージは現実のそれと同等にすることで、ジェスチャーや目配せなどの表現がこぼれおちないようにする。

 また、生徒たちから出力されるメッセージもできるかぎり取りこぼさないようにする。素顔の映ったカメラ映像などはプライバシーの観点から取得できないし取得したいとも思わないが、担任権限の範囲内にある各種トラッキング情報、事前登録されたアバターや持ち込みオブジェクトの特徴、アンケートや授業態度に基づく興味嗜好、過去の発言、成績データなどを統合して、それらを基にした分析結果を生徒たちのアバター付近に数値や文字列として適宜付加する。すこしでも生徒たちのことをより深く理解できるように。

 そんな教育熱心なC先生なので、数学の授業が終わったあとの休み時間も観察を欠かさない。周囲とほとんど交流しようとしないBさんも気になるところではあったが、今まさにマークしているのはAさんのほうであった。細かく左右に揺れる首の様子から察するに、どうも何やら良からぬことを企んでいるようなのだ。その挙動不審な動きは、一年の夏のはじめに巨大なアバターを申請してきたときのそれと一致していた。右腕が背後に回されているのもあやしい。

 まさかあいつ、今度は無許可で何か持ち込んだか。

 Aさんは首をひょこひょこさせながらBさんの座っている席に近づいていく。

 

 Aさんは、ただBさんと仲良くしたかっただけだったという。持ち込んだオブジェクトもいつもの手鏡で、特に申請が必要というほどでもない。Aさんは、当たり障りのない顔をしたBさんに、アバターの一時的な上書きすなわちメイクを教えてあげようと考えていた。ただ、Bさんを驚かせようと無言で顔の前に手鏡をかざしたのがまずかった。

 Bさんは、C先生から視線を外して目を休ませていたところ、いきなりヘルメットを突き抜けて手鏡が現れたのでひどく混乱した。自分の険悪な顔を目の当たりにしたからではない。ヘルメットの内部など顔も何も設定していなかった。そしてそれが問題だった。手鏡がその鏡面に映すものは未定義で、Bさんの視界にエラーが生じた。

 C先生は、Bさん付近の数値がのきなみ異常値を示すのを見て、慌ててBさんのもとへと駆け寄った。

 Aさんは自分の服装が震えていることに気づいた。自分が震えているのではない、服だけが震えているのだ。だんだん布地が海藻のように見えてきた。急に大声を出してやってきたC先生のほうを見ると、カイゼル髭が生えていた。よくわからない数字が表示されていた。

 Bさんの視界では、C先生はその手鏡を突き抜けてBさんの目の前に表示されていた。変な髭が生えている。何も映さない手鏡よりも手前に表示されるC先生は、はたして鏡に映るべきだろうか。エラーにエラーが重なっていた。ヘルメットの窓が壊れて水が流れ込んできているような気がした。

 C先生は教室中の数値が上昇しつづけていることに気づいた。文字列もグリッチがかかって何ひとつ正しく表示されない。周囲が青みがかってきている。あれは人魚姫か? 光がまぶしくてよく見えない。負荷がかかりすぎている。

 そして、サーバが落ちる直前の一瞬。

 三人ははじめて同じ光景を見た。

 

 

SF創作講座第4期第3回課題の梗概感想メモ(その2)

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すでに締め切りまで一週間を切っていますが……遅くなってしまいすみません……みなさん進捗はいかがでしょうか……。

繰り返しになりますが、単なる読み落としや思い込み、勝手な実作への要望などが多々あるだろうと思います。また、講座を受ける前に書いた感想もあれば講座後に書いた感想もあります。作品によってころころ主張が変わっているかもしれません。すみません。

この記事では梗概38作中の後半19作(渡邉さん~遠野さん)について感想を書いています。

 

渡邉清文『プロフェッサー楓とアレクサンドロスの末裔』

  • 感想交換会でうかがったこの作品のメタ的構造がとても面白く、ぜひ実作で読んでみたいと思いました(梗概でうまく伝わっていないのが惜しいです)
  • と、感想交換会のときは思っていたものの、講座でのやりとりを考えると、実作でメタ的構造を採用したほうがいいのかどうなのか……、なんにせよ実作が楽しみです!

 

木玉文亀『ヒーローの見えざる手』

  • 地球上のあちこちで同時多発的に異常事態が起こるところが、スケールが大きくて楽しいです
  • プランクトンが改変されるのなら人間(や他の生き物)も改変された方が一貫性があっていいのかなと思いました(人間だけのために環境改変しているのではありませんよね?)

 

黒田渚『オール・ワールド・イズ・ア・ヒーロー』

  • 外の世界で具体的に何が起こったのか、完全には明らかにならないところが好きです。不気味で居心地が悪く、独自の魅力を放っていると思います
  • 劇中劇のようなかたちで、だんだんと不穏に変貌するストーリーを読んでみたいです

 

九きゅあ『選択子ノ宮』

  • なんらかの決断をしない限り究極の選択が延々と続く、というシチュエーションはなかなかに恐ろしいです。テンポよくストーリーを収めることができれば、極限状況の怖さと面白さがぎゅっと詰まったスリラーになるのではないでしょうか
  • 一方で、人間関係がちゃんと描かれていないと、読者がトハンの迷いに寄り添うことができず置いてけぼりになっちゃうだろうな……とも思いました

 

宇露倫『ロータス・ブレイヴ』

  • かっこいい。主人公ももちろんかっこいいですし、国際災害救助機構と〈灯街〉の設定、テック災害というシチュエーション、制服を結合させたバリケードという解決法など、ひとつひとつがバチっと決まっていると思いました
  • ただ、新米隊員という設定だったので、「主人公の未熟さが原因で何かミスを犯してしまうが、それをきっかけに成長する」というものを勝手に期待してしまいました

 

藍銅ツバメ『ペテン師モランと兎の星』

  • 講座で、梗概には書かれていない設定がすらすらと語られていくのを見て「うらやましい……」と思いました(僕の場合、梗概を書き終わった時点では、書かれていないところはほぼ無なので……)。確固たる世界観があるのが強いです
  • モランが実際に詭弁やトリックを駆使して人々を手玉にとるシーンを読んでみたいです

 

中野 伶理『ディスオリエント・エクスプレス』

  • アピール文を読んで本作品におけるヒーローというものが分かり、面白い着眼点だと思いました。苦い結末も物語全体の雰囲気に合ってていいですね……
  • この雰囲気なら時を超えるのに理屈はいらないと思うんですが、「午前零時に来る」というところには何か謂れがあると更にいいかな、と思いました

 

西宮四光『スタンド・アップ』

  • 突きつけられたナイフ(のおそらく刃の部分)をジェイが強く握るシーンは、さらっとした記述にもかかわらず凄みがありました。梗概ではあまり語られていないジェイの背景がこの1シーンに込められているようでした
  • 何も悪事を働いていない移民や何者かに暴行を受けている移民がいたとき、自警団は(ランパルトは)どうするのかが気になりました


泉遼平『赤いお父さん』

  • まず、タイトルが好きです。スーツの重さと着用者の筋力の関係も面白いし、そういうふうに冷静に観察している主人公の冷めた感じも面白かったです
  • 欲を言えば、終盤にもうひとひねり意外な展開がほしいなと思いました。いじめ問題が特に解決していないのもすこし気になります

 

安斉樹『生きている方が先』

  • これも面白いタイトルだなと思いました。ストーリーも、オーソドックスな幽霊話かと思ったら、突然現れた少女を「自分達に縁深い人」だとすぐ確信するところなど、主人公が自分の知らないルールや価値基準で暮らしている感じがして面白いです
  • 突然現れたのがひとりの少女だったというのは、死んだ父親や「竈三柱大神」や主人公がネットで調べた逸話などと少しちぐはぐになっている気がしました(いや、そのすっきりしなさが独特の余韻を生むのかもしれません)

 

藤田青土『パノプティコンの中心にいる僕』

  • 犯罪者を洗脳して善人に変える法案って時点で「それヴィラン側の所業でしょ」と言いたくなるブラック具合なのに、洗脳されても結局みんな個人の欲望に溺れているという救われない設定が良かったです
  • 梗概では各囚人の話にばかり興味が湧いてしまったので、主人公の物語もそれらに負けないぐらい強くしたほうがいいのかなと思いました

 

泡海陽宇『人類未踏の地、6分の一の世界。』

  • 実在の人物をモデルにヒーローを描くというのは盲点でした。いろいろとハードル高そうですが、もし大丈夫ならぜひとも挑戦してほしいです
  • できれば、梗概の時点で「もうひとつのストーリー」を具体的に示してほしかったです

 

宿禰『世代』

  • 梗概では生物の不思議な身体・性質・生態が幻想的な感じがしましたが、アピール文では詳細な設定の種明かしが面白く、二度楽しめました
  • ラストシーンでは、今ここでムクを食べないと絶対シンとリスは助からない、とムクが確信する理由または勢いがほしいなと思いました

 

松山徳子『彼女は決して名乗らない』

  • 人類の成り立ちについての創造神話的な語りからはじまり舞台となる島国の現状へと至るところが、世界がだんだん広がっていくような感じがして良かったです
  • その遠くまで広がっている世界観とくらべると、起こっている出来事がすこし小さすぎるのではないかとも思いました。また、「僅かな違和感を覚える」辺りの描写が意味深ですが、意図を読み切れませんでした……

 

東京ニトロ『FLIX!!』

  • 梗概時点で登場人物がいきいきとしていると思いました。ただ巻き込まれるのではなく、みんなはっきりした目的があって、きちんと行動しているからでしょうか。とにかく読んでて楽しかったです(ボールド体も真似したくなりました)
  • 外銀河連合にとって、灘くんを高さ3m(のロボット)にすることにどんなメリットがあったんだろうとも思いましたが、別にそこまでは気にならなかったです

 

一徳元就『バグイーター』

  • 第1段落〜第3段落あたりの、時語りの怒りが込められたような文体が臨場感たっぷりで良かったです。「焼けた鉄器の上を転がる水玉のような」というたとえもかっこいいです
  • ラストシーンで何が起こっているのか、梗概ではうまく読み取ることができませんでした。すみません……

 

宇部詠一『アーカーシャの遍歴騎士』

  • リベンジポルノを防ぐというヒーロー像に新しさを感じました。十一歳の少年がすでに自死していることなどが明かされて、はたして主人公の行動に意味はあったのか、と存在意義がゆらぐところも面白かったです
  • 憲治が最終的に美恵の画像を削除した理由は、序盤に書いてある「誰かの名誉を守るため」ではなく、謎の依頼人からの依頼を遂行するためでもなく、法律を守るためでした。ここから、なぜその法律を守らなければならないのかという方向に踏み込むのも面白そうです


揚羽はな『赤い大地に降る雪は』

  • ミステリ的な謎の提示や3分という時間制限にわくわくしました。マイケル・ベルダーが地球にいられなくなった経緯には(アピール文にもありましたが)現実の出来事が重なって感じられ、説得力があるなと思いました
  • 「治療法を模索していたアリシアのおかげで、奇跡的に助かる」の部分については、実作では三分の壁を超えることができた理由が明確に書かれていたらいいなと思います

 

遠野よあけ『カンベイ未来事件』

  • 感想交換会や講座での話を聴いて、この話でいう正義は「正義感」のことだよね、と思っています。物語中の社会がどのようなものなのか、最終的にどういう社会に変わっていくのかに興味がわきました
  • 梗概ではところどころ分からないところもあったのですが、感想交換会で大丈夫って言っていたからきっと大丈夫なんだろうと思います

SF創作講座第4期第3回課題の梗概感想メモ(その1)

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他の受講生の方々がブログやTwitterやnoteで感想を投稿しているのを見て、自分もやってみようと思いました。特に今回は講義後の懇親会に参加できなくて感想を直接話す機会がなさそうなので、文章に残しておこうかと……。

単なる読み落としや思い込み、勝手な実作への要望などが多々あるだろうと思います。すみません。

この記事では梗概38作中の前半19作(天王丸さん~村木さんまで)について感想を書いています。後半の感想はのちほど別記事で書こうと思います。

 

天王丸景虎『52ヘルツの虚鯨』

  • まず、表紙がかっこいい。実作で繰り広げられるであろうスケールの大きな戦闘描写(テッド・チャンの「理解」!)もワクワク度が高いです
  • 実作では、兄の心境の変化(過去に何かあり引きこもる→妹のピンチを救うために戦う→妹とのつながりを断つ、の流れなど)をもっと詳しく知りたいです

 

稲田一声『女の子から空が降ってくる』

  • 自作です
  • あとからどんどん瑕疵が見つかります

 

ひろきち『最後のコハダ』

  • 失った小指をエンガワの皮で補うというエピソードが凄まじくて好きです。このシーンだけ絵柄が違うぞ……! って感じです
  • 序盤に出てきた役所や流山組が終盤の展開に絡んでこないのは、ちょっとだけもったいないような気がしました

 

吾妻三郎太『傷を舐めあう幻』

  • これは、犬と猫は(たとえば青島の猫みたいに)何十匹もいるということなのだろう、と読みました。過疎地に残された犬と猫、ビジュアルで魅せるものがあります
  • 電脳空間から現実への干渉規制があるなか、電脳上の人々が捨てられた動物の面倒を見るという特区をどう設立するのか、そのからくりが知りたいです

 

今野あきひろ『おまえは犬のように吠えたのか?』

  • ヒーローは実在するし悪の結社と実際に戦っているけれど、その戦いが興行みたいになっている、という世界観だと読みました。興行関係なしに自分の意思だけで戦うラストシーンがアツいです
  • 7月の講座での新井先生の発言や8月ゲスト編集者の溝口さんのツイートによると、どうもゲストの方には梗概・実作の印刷物が送られているようです。動画はQRコード化したリンクを添えた方がいいのかもしれません(それで視聴してもらえるかは分かりませんが……)

 

藤琉『メリークリスマス』

  • サンタクロースという概念の善悪が裏返ったかのような設定が面白く、サンタによって第二日本が変貌していく様子をぜひ実作で読みたいと思いました
  • 贈与中毒とは、贈与を受けることに依存してしまうこと? それとも、贈与したくてたまらなくなってしまうこと? 前者の場合なら、買い物中毒などにネーミングを倣えば「受贈中毒」とかになるのかな……と思いました

 

甘木零『君のしっぽが僕を知ってる』

  • 学園ミステリだ! 失踪する生徒たち、幽霊騒動、人為的変異体の噂など、魅力的な謎が次々と出てきてわくわくしました。犯人の告白が全校放送で筒抜けになるよう仕組んでいたというのも「そうそうこれこれ!」って感じです
  • 真相については、梗概ではすこし言葉足らずだったかもしれません。わざわざ隠蔽しなくても普通に穏便に退学させてあげればいいのに……と思ってしまいました(見当違いのことを言っていたらすみません)

 

中倉大輔『フード・オブ・ワンダー』

  • 少年漫画みたいな躍動感あるキャラクターが目に浮かんで楽しかったです。これぞ王道という感じでした
  • なんだかちょっとマフィアがかわいそうで、リンがすべきだったのはマフィアを壊滅させることではなく、調理技術を活用して得た金で輸送車を弁償することだったのでは……という気もします(もっともっと極悪非道なマフィアの描写があればバランスがとれるかもしれません)

 

夢想真『それはシアワセではありません』

  • これは感想交換会でも話したのですが、人間の躰を乗っとるのに腑抜けにする必要がある集合体意識がサトミの躰を乗っとることができたのは、なんらかの理由でサトミがすでに腑抜けに近い状態だったからだという説が浮かびました
  • この説を採用すると、サトルが『シアワセ』を破壊して人々に欲望が戻ったとしてもサトミだけはひとり助からず腑抜けのままで、これはどう料理してもぐっとくるシチュエーションではないか! と勝手に盛り上がってしまいました

 

古川三叶『ハロー、アリス』

  • 僕も指先ひとつで群衆を自在に操ったり翻弄したりしたい! という悪側の気持ちが湧き上がりました。絶対楽しい描写になるでしょうこれ
  • もっと主人公とアリスとの関係性にも切り込んでいったほうがいいのかなと思います。感想交換会で話題になったバディものによくある関係の深め方についても、なるほどと思いました

 

榛見あきる『魔女っ子ミントちゃん☆オーバーライド!』

  • 毎回「こういう社会や経緯があって、だから今こういう技術がある」という設定の組み立てがうまいな、と思います。ドローンによって空中投影されたヒロインというのも絵面が魅力的でした
  • 反政府組織に襲撃だと勘違いさせないためには空中投影映像(と録音された音声)さえあれば良いような気がして、主人公がリスクを冒してまでリアルタイムでアテレコしなくてはならない理由がもうひとつ欲しいと思いました(当該シーン、めちゃめちゃかっこいいです)

 

よよ『ポポイの触覚』

  • 「ポポイは、ププイを嫌悪していた」の辺りでどきっとしましたが、ハッピーエンドで終わってよかった! と思いました。個人的には、実作で「泣いた赤鬼」を超えてほしい気持ちがあります
  • 一方で、ポポイもププイも寓話のために簡略化された存在にすぎないのではないか、という印象もあります。この生命体の生態に何かSF的なしかけがあれば……とも思いましたが、生命体の生々しい描写をきわめる方向でもいけそうな気がします
  • あと、これは本当に些細なことなんですが、触覚→触角では

 

式『贄とオロチと』

  • 最後の「自分が殺されるところをカザシに見せたくないから、カザシを殺す」というギミックが面白いです。よかったら11月に募集開始予定の第2回百合文芸小説コンテストにも応募を!(前回の規定は2万字以内でしたが……)
  • 「救う命を選別している」というタツミの指摘については、できたら実作のどこかで決着をつけてほしいなと思いました

 

岩森央『Ground Island』

  • 現実上で進行するゲーム『Ground Island』の一見アナログなところが面白いと思いました。裏では虫型カメラロボットや、他にもいろいろな技術がはたらいているのでしょう
  • 梗概では、琴が信じる強さが何なのかつかみとれませんでした。琴が生き延びられたのは、共に過ごした路上生活者たちのサポートがあったからのように感じました(『ヒナまつり』のアンズのようなイメージ)。幼少期に琴が得たものと『Ground Island』が子供たちに与えるものとがどうつながっているのかがポイントなのかなと思いました

 

大塚次郎『白銀のクリアテキスト』

  • かつてのインターネットと幽霊と暗号化技術の組み合わせが好きです。取り合わせが奇妙だと一文一文におかしみがでてきますね。アピール文の内容も面白く、ぜひ実作に組み込んでほしいと思いました
  • ただ、梗概では「そこで私は「幽霊」の助けを借りることにした」以降の理屈がちょっと分かりませんでした……すみません……

 

一色光輝『ムタビリスの庭』

  • ビジュアルの描写と時雨のセリフ回しがかっこいいです(梗概で書くには文字数制限がきついですが……)。この作品の空気・雰囲気がしっかり伝わりました
  • 自分が何者なのかを知るために時雨と共に庭を出る決意をする少年ですが、庭を出る前に少年の出自が判明してしまうので、庭から旅立つ新たなモチベーションが欲しいところです

 

武見倉森『ゲームマスタ』

  • 幾重にも重なった脱出ゲームという構造が面白かったです。逆方向への移動手段もバグ技っぽくて好きです
  • できれば、いま梗概で書かれている結末のもうちょっと先まで読みたいです……!

 

比佐国あおい『繭玉のたゆたい』

  • 今まで書いたことのない時代ものに挑戦するというチャレンジ精神、見習いたいです。課題の説明文にも「正しさ、強さの意味は時代とともに変わる」とありますし
  • 「鵺が大地を荒廃させたのは、人間の醜い生業をむき出しにさせることで人間をかげは蝶から守護するためだった」という動機が面白いのですが、それなら何故かげり郷の人々は鵺の努力の甲斐なくかげは蝶になってしまったのか、うまい理由付けがほしいなと思いました

 

村木言『遺された角』

  • マウリの境遇が好きです。マウリの側にも、自分が愛した(そして自分のせいで死んでしまった)女性の娘に真実を告げ贖罪したい気持ちと、愛する幼子の命を救うためにすべてを隠し通してでも薬を手に入れたい気持ちとの間で葛藤があったのではないかと想像しました
  • エーネが復讐を誓ってから翻意するまでのスパンがやや短いように感じられました。その間の出来事が「一角様から話を聞く」のみ、というのが原因かもしれません

第二十八回文学フリマ東京ありがとうございました

 一週間前になりますが、GW最終日、2019/5/6(月祝)の第二十八回文学フリマ東京にサークル『アナクロナイズド・スイミング』として出店してきました。お越しくださった皆様、ありがとうございました。

 

 前日深夜までずっと「サークルチケットと売る本とお金さえあれば大丈夫、サークルチケットと売る本とお金さえあれば……」と繰り返し唱えていたおかげで、当日はものの見事にそれら以外のすべてを忘れてきてしまいました。敷き布とか値札とかポスターとかポスター立てとか。べらぼうに焦りましたが、まあ、サークルチケットと売る本とお金さえあれば大丈夫でした。

 今回は会場がいつもと違い、東京流通センター第一展示場でした。全サークルがひとつのフロアに収まっているためか、これまで以上に活気に溢れていたような気がします。参加人数も過去最大だったとか。迷子のアナウンスが印象的でした。

 また、今回は初めて自分のサークル以外の合同誌に参加しまして、そういう意味でもいつもと違う文学フリマでした。そう、あの雨月物語SF合同です。午前中であっという間に完売したという、あの、伝説の……。すご……やば……。

 その雨月物語SF合同誌『雨は満ち月降り落つる夜』は、現在Kindle版が配信中です。 よかったらチェックしてみてください。

雨は満ち月降り落つる夜 (雨月物語SF合同)

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 弊サークル 『アナクロナイズド・スイミング』の本も、BOOTHで通販できるようにしてみました。購入にはPixivアカウントが必要ですが、遠方のかたでもしTwitterの告知見て興味持ってくださってたらのぞいてみてください。

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ではでは!

「夢オチ」縛りの小説・論考アンソロジー『息 -Psyche- vol.3』を2019/5/6文フリ東京で頒布します

2019/5/6(月祝)の第二十八回文学フリマ東京(ス-43)にて、「夢オチ」縛りの小説・論考アンソロジー『息 -Psyche- vol.3』を頒布します。

夢オチというギミックの魅力を再考しました。探偵×夢オチ、予知夢×夢オチ、百合×夢オチ……などなど、ただものならぬ夢オチばかりが集まったので、文学フリマ東京@東京流通センター(第一展示場)にお越しの際はぜひお手に取ってみてください。明日です……!

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第二十八回文学フリマ東京【アナクロナイズド・スイミング】おしながき

 

【特集「夢オチ再考」】

17+1「夢オチ探偵」

巣雲島一族連続殺人事件を解決する、と名乗り出たのは名探偵・夢野ノジカ。関係者を集めて犯人を告発するかと思いきや「いや全然分かりませんけど」と衝撃の告白。推理の代わりに夢野ノジカが提案する『奥の手』とは――夢オチ!?

17+1「逆夢」

豪華客船でのバカンスを『僕』は満足に楽しめていなかった。ここ最近ずっと奇妙な夢ばかりを見るのだ。『おねしょの夢を見て、目覚めるとプールにいる』みたいに、物語でよくあるパターンとは正反対の夢/現実を。プールバーでたまたま出会った医師に『僕』は悩みを打ち明けるが……。

みた「ふたりがキスしたら即夢オチする連作短篇集(百合編)」

タイトルの通り、ふたりがキスしたら即夢オチする連作短篇集です。百合編です。主人公のみこりんと、その幼馴染みのちぃ子。ふたりのめくるめく関係性は、はたしてどこへたどり着くのか。

渋江照彦「巡夢あるいは「夢見」の素描」

暗闇のなか目覚めた『僕』。不安にさせる女性の笑い声。「何、逃げようとしてるの?」。雨の様に降るドロリとした液体。錆びた鉄の臭い。変な夢の数々。現夢合一論。巡夢。「夢見」とは一体……。

月橋経緯「(愚考)虚構信者よ浮遊しろ 〜乱歩の短篇から夢オチをかんがえる」

江戸川乱歩の短編でよくみるドンデン返しが『夢オチ』の構造に近いことを手掛かりに、夢オチの魅力と可能性をさぐる論考です。

淡中圏「夢オチの話をしよう」

夢オチが「がっくりなオチ」だとされているのはなぜか、夢オチを面白くするために「理解のための基礎」をどう構築するかなど、実作例を挙げながら検討していきます。

 

サンプル

Twitterで夢オチ作品のサンプル画像を公開しています。

 

 雨月物語×SF『雨は満ち月降り落つる夜』

【ス-40/雨月物語SF合同】で頒布される、雨月物語をSF的視点から再解釈した小説合同誌『雨は満ち月降り落つる夜』にも寄稿しています。こちらもよろしくお願いいたします。

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雨月物語×SF『雨は満ち月降り落つる夜』@文学フリマ東京(2019/5/6)に寄稿しました

2019/5/6(月祝)の第二十八回文学フリマ東京(ス-40)で頒布される、雨月物語をSF的視点から再解釈した小説合同誌『雨は満ち月降り落つる夜』に寄稿しました。

特設サイトはこちらです。

www.sasaboushi.net

 

僕(17+1)は『浅茅が宿』を担当しました。浅茅が宿×スマートホーム×共犯者蟹SFです。共犯者蟹SFって何。

まあ、どこから蟹が湧いてきたかというと、雨月物語の作者である上田秋成のお墓が蟹の上に乗っかっていることから着想しました(「上田秋成 お墓 蟹」とかで検索してみてください)。

『雨は満ち月降り落つる夜』には各短編のもととなった作品のあらすじも掲載されており、雨月物語を読んだことがある方もそうでない方も楽しめる内容になっていると思うので、ぜひお手に取ってみてください。


主宰の笹帽子さんによる告知記事です。合同誌の趣旨、各作品の紹介、執筆者紹介が載っています。

雨月物語SF『雨は満ち月降り落つる夜』 #文学フリマ 東京にて (1) | 笹帽子の樹

雨月物語SF『雨は満ち月降り落つる夜』 #文学フリマ 東京にて (2) | 笹帽子の樹

雨月物語SF『雨は満ち月降り落つる夜』 #文学フリマ 東京にて (3) | 笹帽子の樹

 

執筆者のmurashitさんの告知記事です。こちらでも全作品紹介いただいています。

夜のみだらな雨と月 - 青色3号

執筆者のcydonianbananaさんの告知記事です。

雨月物語SF『雨は満ち月降り落つる夜』@文学フリマ東京 2019/5/6 - 鳰のような形をした僕の迂回路

執筆者のY.田中 崖さんの告知記事です。

雨月物語/雨月物語SF合同 | 水平線上の雨

執筆者の鴻上怜さんの告知記事です。

来月開催の文学フリマ東京に参加します - はてなブログ

執筆者の雨下雫さんは、サークル【シ-49/C1講義室】としても参加するとのことです。

 

 

また、僕の所属するサークル【ス-34/アナクロナイズド・スイミング】も文フリ東京に出店します。「夢オチ」縛りの小説・論考アンソロジー『息 -Psyche- vol.3』を頒布します。こちらもよろしくお願いいたします。

 

 

第二十八回文学フリマ東京(2019/5/6)の開催案内はこちらです。

bunfree.net

 

2015/9/2 円城塔『シャッフル航法』 出版記念トーク&サイン会のメモ

(※この記事は2015年9月6日に別のブログで書いた記事を加筆修正したものです)

円城塔『シャッフル航法』 出版記念トーク&サイン会

 に、行ってきました。

 小説を読むとき/読んだ後に、その小説に関連する情報を知ることによって、さらに様々な角度で味わえるようになると思います。また、小説を読むときだけではなく、自分が創作するときの視点も増えることでしょう。作品に関する情報の例として、あとがき、他の人の感想・書評、作品が書かれた時代背景、(解釈のひとつである)メディアミックス作品などがぱっと思いつきますが、作者本人が自作や自身の小説観について語った内容というのも重要な情報です。とても面白く、貴重な経験でした。

 トークイベントの間にメモしたことを以下にまとめます。聞いていて笑った箇所ばかりをメモったような気がします。正確に聞き取れていないところ、意図を取り違えているところもあると思います。大体は発言元は円城塔さんだったと思いますが、ゲストの山本貴光さんも折に触れて専門用語の解説や話の整理、独自の視点からの意見をされていたので、そのあたり混ざっているかもしれません。

メモまとめ

  • (配布された特製小冊子の充実ぶりを受けて)トークイベントの間、全員これを読めばいい
  • 当初のトークイベントのタイトル案は『文学のリファクタリング』だった
    • リファクタリングとは、出力されるものは変わらないままで、ちゃんとしたプログラムを書く(修正する)ということ
  • 最近、「ちゃんと書こっ!」と思った
    • ちゃんと生きよう
    • トークイベント用のメモに『きれいな言葉をしゃべろう』と書いてある
      • 対談を文章に起こしにくいらしい
  • 長編を書いていると、自分が何を書いているのかどんどん忘れる
    • 登場人物名を忘れる
      • 雨月物語ゲラ3日目だが、未だにキャラ名を間違える
    • 作風が作風なので許されるだろう……
    • しかし何とかしないと、かなり前衛の方に寄ってしまう
  • 機械の力に頼りたい
    • 『〈主人公1〉が〈動作1〉を〈n〉した』みたいに書いて、最後に一気に置換したい
  • 『プロローグ』の執筆中、小説に出てくる語の種類をプログラムで数えたら語彙が少ないことに気づいた
    • 形容詞が少なすぎる
      • 『赤い』とか『青い』とか
  • 書いたプログラムも可読性が低い
    • 時間との戦いで、良い文章/プログラムが書けない
    • (このトークイベントが)経営の話、ソフトウェア会社の危機みたいな話になっている
  • 出版社に頼みたいこと:diffを取ってほしい
    • 検索できなくなるからゲラを紙に印刷するのをやめよう
    • 構造が取れなくなるからPDFにするのもやめよう
    • 『〈主人公1〉が〈動作1〉を〈n〉した』の状態の時点で編集に渡して、「主人公2の登場頻度が少なすぎるのでは」みたいな指摘を受けたい
  • 『Φ』(『シャッフル航法』収録作)は、まず何文か文字数を考えずに適当に書いて、プログラムで長さ順に並べて、欠けているところを埋めた
    • 1文字だけ調整する、というのはとても難しい
  • 『シャッフル航法』(表題作のほう)は、シャッフル自体はプログラムによるものだが、(単にシャッフルするだけでは文章が無茶苦茶になるので)人手で文章の方を調整している
    • 意図せずして七音・五音ばかりになった
  • みんな自分なりの星野しずるを作るといい
  • みんな自分なりの文章を作るbotを作るといい
    • favの数で強化学習するbot、ありそうなのに意外とみない
    • favが多いツイートは頻繁に流すとか、あってもいいのに
  • 人間に合ったお話の構造を突き詰めていけたらいいな
    • 形式主体で進めていって、どこまでいったら構造が壊れるのかを見る
    • 形式でやっているときに感情は差し込めない。壊れたときに差し込むことができる
    • 人間が機械に感情を見出すのも、機械がバグったり、人間にとってうまくいかない状態のとき
  • 古典→現代文に、というのも一種のリファクタリング
    • 雨月物語などの翻訳をやってみてどう思ったか?という質問に対し)もうちょっと整然とやれるかと思ったが、できない
      • 自分の中の詩人がんばれ!
    • 何故整然とできないかというと、自分に古典の素養がないから
      • 雨月物語では活字版を底本にした
      • 和本版でもできるかな? と思ったが、変体がなが全く読めなかった

 ……このあとも、五段活用の不思議さについて、Yome Yome メオトドクショリレーでの協業について、おまけの特製小冊子についてなど色々なお話がありましたが、メモが乱雑になりはじめたのでこの辺りで終えたいと思います。

感想

 興味深いお話ばかりでしたが、『Φ』についてのエピソードが特に面白かったです。言われてみれば至極自然で効率的な書き方なのですが、『文単位では、基本的に前から順番に、読んでいる流れの通りに作者も書いているのだ』という先入観を自分が持っていたことに気づかされました。また、『Φ』のように特殊な構造の小説をプログラムを活用して書く一方で、『シャッフル航法』(表題作)のように、出力される作品の面白さのために入力する文章に手動で調整を加えることもある、プログラミングだけでは人間に合ったお話は(まだ)作れない、という点も面白かったです。

 また、これはどうでもいい話ですが、『〈主人公1〉が〈動作1〉を〈n〉した』みたいに書いて最後に一気に置換したいという話を聞いたときには、ドラえもんの『アルファがベータをカッパらったらイプシロンした』のギリシャ文字が変数である可能性が脳内に浮上しました。