2015/9/2 円城塔『シャッフル航法』 出版記念トーク&サイン会のメモ

(※この記事は2015年9月6日に別のブログで書いた記事を加筆修正したものです)

円城塔『シャッフル航法』 出版記念トーク&サイン会

 に、行ってきました。

 小説を読むとき/読んだ後に、その小説に関連する情報を知ることによって、さらに様々な角度で味わえるようになると思います。また、小説を読むときだけではなく、自分が創作するときの視点も増えることでしょう。作品に関する情報の例として、あとがき、他の人の感想・書評、作品が書かれた時代背景、(解釈のひとつである)メディアミックス作品などがぱっと思いつきますが、作者本人が自作や自身の小説観について語った内容というのも重要な情報です。とても面白く、貴重な経験でした。

 トークイベントの間にメモしたことを以下にまとめます。聞いていて笑った箇所ばかりをメモったような気がします。正確に聞き取れていないところ、意図を取り違えているところもあると思います。大体は発言元は円城塔さんだったと思いますが、ゲストの山本貴光さんも折に触れて専門用語の解説や話の整理、独自の視点からの意見をされていたので、そのあたり混ざっているかもしれません。

メモまとめ

  • (配布された特製小冊子の充実ぶりを受けて)トークイベントの間、全員これを読めばいい
  • 当初のトークイベントのタイトル案は『文学のリファクタリング』だった
    • リファクタリングとは、出力されるものは変わらないままで、ちゃんとしたプログラムを書く(修正する)ということ
  • 最近、「ちゃんと書こっ!」と思った
    • ちゃんと生きよう
    • トークイベント用のメモに『きれいな言葉をしゃべろう』と書いてある
      • 対談を文章に起こしにくいらしい
  • 長編を書いていると、自分が何を書いているのかどんどん忘れる
    • 登場人物名を忘れる
      • 雨月物語ゲラ3日目だが、未だにキャラ名を間違える
    • 作風が作風なので許されるだろう……
    • しかし何とかしないと、かなり前衛の方に寄ってしまう
  • 機械の力に頼りたい
    • 『〈主人公1〉が〈動作1〉を〈n〉した』みたいに書いて、最後に一気に置換したい
  • 『プロローグ』の執筆中、小説に出てくる語の種類をプログラムで数えたら語彙が少ないことに気づいた
    • 形容詞が少なすぎる
      • 『赤い』とか『青い』とか
  • 書いたプログラムも可読性が低い
    • 時間との戦いで、良い文章/プログラムが書けない
    • (このトークイベントが)経営の話、ソフトウェア会社の危機みたいな話になっている
  • 出版社に頼みたいこと:diffを取ってほしい
    • 検索できなくなるからゲラを紙に印刷するのをやめよう
    • 構造が取れなくなるからPDFにするのもやめよう
    • 『〈主人公1〉が〈動作1〉を〈n〉した』の状態の時点で編集に渡して、「主人公2の登場頻度が少なすぎるのでは」みたいな指摘を受けたい
  • 『Φ』(『シャッフル航法』収録作)は、まず何文か文字数を考えずに適当に書いて、プログラムで長さ順に並べて、欠けているところを埋めた
    • 1文字だけ調整する、というのはとても難しい
  • 『シャッフル航法』(表題作のほう)は、シャッフル自体はプログラムによるものだが、(単にシャッフルするだけでは文章が無茶苦茶になるので)人手で文章の方を調整している
    • 意図せずして七音・五音ばかりになった
  • みんな自分なりの星野しずるを作るといい
  • みんな自分なりの文章を作るbotを作るといい
    • favの数で強化学習するbot、ありそうなのに意外とみない
    • favが多いツイートは頻繁に流すとか、あってもいいのに
  • 人間に合ったお話の構造を突き詰めていけたらいいな
    • 形式主体で進めていって、どこまでいったら構造が壊れるのかを見る
    • 形式でやっているときに感情は差し込めない。壊れたときに差し込むことができる
    • 人間が機械に感情を見出すのも、機械がバグったり、人間にとってうまくいかない状態のとき
  • 古典→現代文に、というのも一種のリファクタリング
    • 雨月物語などの翻訳をやってみてどう思ったか?という質問に対し)もうちょっと整然とやれるかと思ったが、できない
      • 自分の中の詩人がんばれ!
    • 何故整然とできないかというと、自分に古典の素養がないから
      • 雨月物語では活字版を底本にした
      • 和本版でもできるかな? と思ったが、変体がなが全く読めなかった

 ……このあとも、五段活用の不思議さについて、Yome Yome メオトドクショリレーでの協業について、おまけの特製小冊子についてなど色々なお話がありましたが、メモが乱雑になりはじめたのでこの辺りで終えたいと思います。

感想

 興味深いお話ばかりでしたが、『Φ』についてのエピソードが特に面白かったです。言われてみれば至極自然で効率的な書き方なのですが、『文単位では、基本的に前から順番に、読んでいる流れの通りに作者も書いているのだ』という先入観を自分が持っていたことに気づかされました。また、『Φ』のように特殊な構造の小説をプログラムを活用して書く一方で、『シャッフル航法』(表題作)のように、出力される作品の面白さのために入力する文章に手動で調整を加えることもある、プログラミングだけでは人間に合ったお話は(まだ)作れない、という点も面白かったです。

 また、これはどうでもいい話ですが、『〈主人公1〉が〈動作1〉を〈n〉した』みたいに書いて最後に一気に置換したいという話を聞いたときには、ドラえもんの『アルファがベータをカッパらったらイプシロンした』のギリシャ文字が変数である可能性が脳内に浮上しました。