2024/05/19「文学フリマ東京38」の告知と『CALL magazine』vol.5再配信のお知らせ

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先日、第十五回創元SF短編賞を受賞しました。たいへん光栄に思います。受賞のことばは上記リンク先に掲載されており、現在がんばって改稿している最中のため、いまこのブログに書けることはあまりありません。また受賞作の掲載情報がはっきりしたころに改めて告知しようと思います。

この受賞を記念して、『ドンキー・アーカイヴ』と『CALL magazine』でそれぞれお祝いの企画を立てていただきました。ありがたいことです。以下にお知らせいたします。

 

ドンキー・アーカイヴふたたび

明日5/19(日)開催の文学フリマ東京38にて頒布される、第2展示場つ-10【V&R BOOKS/鴨川エッチ研究会】の新刊『ドンキー・アーカイヴ 第二回配本』に寄稿しています。

短編ひとつめの「三秒」は、135枚の写真で構成された物語。いつかの夏の名古屋市博物館が主な舞台です。稲田一声がまだ稲田一声じゃなかったころ(17+1名義で小説を書いていたころ)の作品をリライトし、今回載せていただきました。

短編ふたつめのニューサウスウェールズの怒れるネズミ」は、人語をしゃべるネズミ・スティーボのゆかいなお話。もともとは『暴力と破滅の運び手セレクション! ケモのアンソロジー』という同人誌に寄稿したものを再録していただきました。なぜ再録してもらったのかは、目次を見ればわかるかも。

そして、受賞記念企画の覆面競作:テーマ「稲」「田」「一」「声」ペンネームから一文字ずつをテーマとして分け合って掌編を書きました。参加者は坂永雄一さん、春眠蛙さん、千葉集さん、稲田一声の四人。四つの掌編それぞれがどの文字をテーマにして誰が書いたものなのか、ぜひ当ててみてください。

他にも、千葉集さんのエッセイ、暴力と破滅の運び手さんの新作短編、ふじみみのりさんの「エッチな小説を読ませてもらいま賞」次点作品など盛りだくさんです!

そういえば今回の文学フリマ東京38、一般入場にはチケット購入が必要ですのでお気をつけください。

bunfree.net

また、文フリ東京に来られない方は以下の通販をご利用ください。後日、電子版を配信する予定もあります。

brutetaro.booth.pm

 

ついでに文学フリマ東京38寄稿情報まとめ

第2展示場【つ-10】V&R BOOKS/鴨川エッチ研究会

『ドンキー・アーカイヴ 第2回配本』(新刊)

『ドンキー・アーカイヴ 第1回配本「男たちと、その傷」』(準新刊)

『暴力と破滅の運び手セレクション ケモのアンソロジー』

第2展示場【つ-27】Kaguya Books

『SFアンソロジー 新月/朧木果樹園の軌跡』

第2展示場【え−22】ふざけた黒猫

生物SFアンソロジー なまものの方舟/方舟のかおぶれ

 故人AI×不死化社会アンソロジー『トランジ 死者と再会する物語』(委託)

第2展示場【え−42】TOKIMAKE コスメアンソロジー

Sci-Fire 2022(委託)

 

CALL magazineみたび

紅坂紫さんによるフラッシュフィクション専門週刊誌『CALL magazine』でも、vol.5の稲田一声「印刷物一覧」創元SF短編賞受賞のお祝いで再配信いただいております。

コンビニで印刷すると楽しめるちょっとした仕掛け的なものがあります。もしよかったらネットプリントしてみてください。

同じく再配信中の坂崎かおるさん(日本推理作家協会賞短編部門受賞おめでとうございます!)の作品や、毎週更新される新作も合わせてどうぞ。

ファミリーマート/ローソン/ポプラ/ミニストップ用ユーザー番号:239TY8FFCR
1回20円(白黒/A4)
配信期限:6/1 19:00まで

複数の印刷物、Hitokoe Inadaの文字

 

《ドンキー・アーカイヴ》vol.1「男たちと、その傷」と『CALL magazine』vol.5

(このブログでは告知していなかったので改めて……)

 

《ドンキー・アーカイヴ》vol.1「男たちと、その傷」

暴力と破滅の運び手さん主催の同人誌《ドンキー・アーカイヴ》vol.1「男たちと、その傷」が通販&配信開始しました。epubづくりをがんばりました。よろしくお願いいたします。

 

◎収録作品(収録順)

  • 「肋骨の痛み」坂永雄一
  • 「ブラッドブラザーズ」千葉 集
  • 「サブスクを食べる幽霊たち」稲田一声
  • 「不確定の傘」春眠 蛙
  • 「マンドラゴラ」暴力と破滅の運び手

 

BOOTH書籍通販(匿名発送対応) 

brutetaro.booth.pm

 

BOOTH電子版(※epubです。注意事項をご確認ください)

booth.pm

 

Kindle

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『CALL magazine』vol.5再配信(2月29日22:00ごろまで)

フラッシュフィクション専門週刊誌『CALL magazine』のお年玉企画にて、vol.5の稲田一声「印刷物一覧」がバックナンバー再配信に選ばれました。(この機会にプリントしてくれたみなさま、本当にありがとうございます!)

寒い日にコンビニで印刷すると楽しめる、ちょっとした仕掛け的なものがあります。もしよかったらネットプリントしてみてください。

同じく再配信中の水沢なおさん・糸川乃衣さんの2作品も合わせてどうぞ。

ファミリーマート/ローソン/ポプラ用ユーザー番号:239TY8FFCR
1回20円(白黒/A4)
2月29日22:00ごろまで

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また、今週は坂永雄一さんによるvol. 51「盗人指南」も配信されており、こちらも一緒にネットプリントすることができます。
(ゲストエディターは鯨井久志さんです)

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さらに『CALL magazine』バックナンバーには千葉集さん、暴力と破滅の運び手さんの作品もあり、Instagramから読むことができます。

www.instagram.com

www.instagram.com

記事に埋め込んだら全文読めた!

2023/11/18「かぐやフェス2023」物販のお知らせ

明日11/18(土)に京都で開催される「かぐやフェス2023」に遊びに行きます。

また、物販スペースに「稲田一声」というそのまんまの名前で出店します。

かぐやフェス2023の詳細はこちら↓

virtualgorillaplus.com

「申し込みは11月12日まで」と書かれていますが、チケットを申し込み忘れてしまった人ももしかしたらまだ間に合うかも。VG+ (バゴプラ)代表の井上彼方さんはこんなツイートをしています。

以下は、かぐやフェス参加者向けの物販のお知らせです。

物販①『5GⅡ』1200円

ゲンロン大森望SF創作講座第5期有志による同人誌の第2弾『5GⅡ』を委託販売します(6~7部くらい)。ごじーつー、と読みます。今回のテーマは「キョウカイ」。第5期正規受講生や聴講生、SF創作講座とゆかりのある方の魅力が詰まった一冊です。

バゴプラ関係では、第二回かぐやSFコンテスト最終候補十三不塔さんによるエッセイ「ゲンロンSF創作講座とのかかわり」や、「ひかる水辺のものたち」原里実さんによる短編「金魚鉢のある室内」11月25日(土)にKaguya Planetで新作SF短編が先行公開される吉羽善さんの短編「カルチュラル・ドレス・デー」が収録されています。

また、私(稲田一声)も「あのトラック」という短編を寄稿しています。繁華街を走るあのきらびやかなトラックは、いったい何をどこへ運んでいるのでしょうか? というお話です。

全体のもくじが気になる方や、通販を利用したい方は、CAVA BOOKSさんの通販ページをご覧ください。

cavabooks.thebase.in

『5GⅡ』執筆者
稲田一声/馬屋豊/岸田大/猿場つかさ/織名あまね/十三不塔/園田陽/田場狩/継名うつみ/中野伶理/長谷川京/原里実/榛見あきる/本間久文/夢想真/邸和歌/悠人/吉羽善/葉々(五十音順,敬称略)
表紙イラスト:いしかわ様(@141shkw

物販②『&6』1500円

同じく第6期有志による同人誌『&6』を委託販売します(6~7部くらい)。あんろっく、と読みます。こちらのテーマは「脱出」ですが、テーマフリーの創作やSF創作講座第6期受講に関するエッセイも入っていて盛りだくさんの内容です。

バゴプラ関係では、第三回かぐやSFコンテスト読者賞を受賞した牧野大寧さんによる短編「プラネットハイウェイ」、ふたたび登場(!)吉羽善さんの短編「恐ろしきはかの抱擁」が収録されています。「虚勢喜悦症候群 a.k.a. ぶつかりおじさん」を寄稿されている柿村イサナさんも、別名義でのインタビューが近いうちにバゴプラに掲載されるとのツイートをお見かけした覚えがあります。 

全体のもくじが気になる方や、通販を利用したい方は、CAVA BOOKSさんの通販ページをご覧ください。

cavabooks.thebase.in

『&6』執筆者
馬屋豊/大庭繭/柿村イサナ/降名加乃/庚乃アラヤ/髙座創/多寡知遊/瀧本無知/武見倉森/継名うつみ/中野伶理/難波行/長谷川京/花草セレ/伴場航/柊悠里/広海智/文月あや/牧野大寧/夢想真/邸和歌/やらずの/夕方慄/悠人/吉羽善/和倉稜/渡邉清文(五十音順,敬称略)
表紙イラスト:ももやまもぎゅへい様(@M_MOGYUHEI

物販③稲田一声のフリーペーパー

間に合えば「面白かったループもの的な作品紹介」というフリーペーパーも配布する予定です。まだ一文字も書いていません。やばい

2023/11/11「文学フリマ東京37」の告知と『INITIATION』配信開始のお知らせ

タイトルの通りです。

まずは明日11/11(土)開催の文学フリマ東京37の告知から。

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文学フリマ東京37で稲田一声が寄稿しているブースのまとめ

新刊・準新刊・委託

【え-35】鴨川エッチ研究会
『暴力と破滅の運び手セレクション ケモのアンソロジー』(準新刊)
『息 -Psyche-』vol.3-5(委託・少部数)

【え-64】造鳩會
『鳩のおとむらい 鳩ほがらかアンソロジー』(新刊)

【お-01〜03】SF創作講座第五期生・第六期生有志(やんぐはうす)
『5GⅡ』(新刊)

【お-04】超うさぎ文明
『うさぎSFアンソロジー ウはうさぎさんのウ/R is for Rabbit』(新刊)

【お-05】V系SFの店
故人AI×不死化社会アンソロジー『トランジ 死者と再会する物語』(準新刊)

その他既刊

【え-34】Kaguya Books
『SFアンソロジー 新月/朧木果樹園の軌跡』
生物SFアンソロジー『なまものの方舟/方舟のかおぶれ』

【え-36】未確認電波帯
架空の島アンソロジー『貝楼諸島へ』

【え-37〜38】SCI-FIRE
『Sci-Fire 2022』

文学フリマ東京37の新刊・準新刊・委託の詳細情報

【え-35】鴨川エッチ研究会

動物、獣人、人狼、獣化など、いわゆる「ケモノ」を題材にした小説が8篇入った『暴力と破滅の運び手セレクション ケモのアンソロジーです。

私はニューサウスウェールズの怒れるネズミ」という短編を寄稿しました。人間の言葉をしゃべる世にも珍しいネズミ・スティーボと出会ったことで、人生のスピードが大きく変わった男の物語です。ニューサウスウェールズはあんまり関係ありません。

また、以前つくったアンソロジー『息 -Psyche-』のバックナンバーも委託販売していただけることになりました。各号の作品紹介や試し読みはBoothにてご覧ください(注文はできません)。

当日は私もブースにいるときがあります。よろしくお願いします。

【え-64】造鳩會

77作の鳩にまつわる作品が集まった『鳩のおとむらい 鳩ほがらかアンソロジーです。

私はコバトンたちに気をつけて」というエッセイを寄稿しました。埼玉県の愛らしいマスコット・コバトンにまつわる意外な事実に迫ります。

【お-01〜03】SF創作講座第五期生・第六期生有志(やんぐはうす)

ゲンロン大森望SF創作講座第5期生有志による、接続されたSF誌『5GⅡ』です(左側の女の人が頬杖をついているイラストのほうです)。今回は「キョウカイ」というテーマが設けられています。

私は「あのトラック」という短編を寄稿しました。繁華街を走るあのきらびやかなトラックは、いったい何をどこへ運んでいるのでしょうか?

【お-04】超うさぎ文明

小説メインに31作品がふかふか詰まったうさぎSFアンソロジー『ウはうさぎさんのウ/R is for Rabbit』です。

私は「アルチンボルデスク」という短編を寄稿しました。アルチンボルド肖像画のごとく、(視覚デバイスの不具合によって)目に映るものがすべて動物の組み合わせに見えるようになった「かれ」のお話です。

【お-05】V系SFの店

故人AI×不死化社会アンソロジー『トランジ 死者と再会する物語』です。

第10回ハヤカワSFコンテストに文字通り連名で応募した連作短編集のパワーアップ版です。ゲンロン大森望SF創作講座の正規受講生・聴講生7人によって、四百年の時間の中で世界各地を舞台に、生と死をめぐる七つのエピソードが語られます。

私はエアホッケーの向こう岸」という短編を書きました。世界設定や各作品のあらすじなどの詳細はWebカタログをご覧ください!

ホラーアンソロジー『INITIATION』配信開始のお知らせ

そして、こちらは二十二作の「通過儀礼」にまつわるホラーが収録されたアンソロジー『INITIATION』です。

私は「丸くなったね」という掌編を寄稿しました。介護脱毛をすると宣言した父と、そんなことを言う人だったろうかと戸惑う「私」と、タブレット上に再現された母のお話です。

すでに配信開始されており、こちらのリンクから無料でダウンロードできます!

 

以上、よろしくお願いいたします……!

2023/9/10「文学フリマ大阪11」の告知

2023/9/10(日)に、大阪のOMMビルにて「文学フリマ大阪11」という小説・評論・ノンフィクション・ZINEなどなどの展示即売会があります(入場無料)。そちらで頒布されるいくつかの本に自分の書いた小説が収録されているので告知します。新刊1冊+準新刊1冊(大阪初売り)+既刊いろいろです。

文学フリマ大阪11の開催情報はこちら↓

bunfree.net

なお、文学フリマ大阪11に来場される際は「新型コロナウイルスへの対応について」もご確認ください。

(各見出しの頭にあるのはブースの位置を示す番号です)

【E-47】鴨川エッチ研究会『暴力と破滅の運び手セレクション! ケモのアンソロジー』(新刊!)

動物、獣人、人狼、獣化など、いわゆる「ケモノ」を題材にした小説が8篇入ったアンソロジーです。主宰の暴力と破滅の運び手さんからお誘いを受け、私もニューサウスウェールズの怒れるネズミ」という12000字くらいの短編を寄稿しました。人間の言葉をしゃべる世にも珍しいネズミ・スティーボと出会ったことで、人生のスピードが大きく変わった男の物語です。ニューサウスウェールズはあんまり関係ありません。

かつての私がネズミの声に執着している様子です。

(そのわりには、この歌うネズミのイメージが『ベイブ』由来であることをつい最近まですっかり忘れていましたが……。テープを早回ししたような甲高い声で歌う小動物のキャラクター・登場作品を教えていただいた方々に感謝です。ありがとうございます)

同人誌の詳細はWebカタログをご覧ください。

また、こちらのツリーから各作品の試し読みができます。

【E-54】トランジ『トランジ 死者と再会する物語』(準新刊!)

故人AI×不死化社会アンソロジー『トランジ 死者と再会する物語』にも参加しています。第10回ハヤカワSFコンテストに文字通り連名で応募した連作短編集のパワーアップ版です。ゲンロン大森望SF創作講座の正規受講生・聴講生7人によって、四百年の時間の中で世界各地を舞台に、生と死をめぐる七つのエピソードが語られます。

私はエアホッケーの向こう岸」という短編を書きました。世界設定や各作品のあらすじなどの詳細はWebカタログをご覧ください!

トランジは今のところ通販の予定がなく、文フリに行くか渡邉清文さんに直接連絡しないと買えないっぽいので、この機会にぜひ……!

【E-03】Kaguya Books『なまものの方舟/方舟のかおぶれ』と『SFアンソロジー 新月/朧木果樹園の軌跡』(既刊)

井上彼方さんによる生物SFアンソロジー『なまものの方舟/方舟のかおぶれ』の文庫版が頒布されます。A5版と同じく、「ぶるぶるちゃん、お顔を上げて」という短編と生き物のコラムを寄稿しています。火星生まれのアパトサウルスにまつわる、ひと夏の思い出の話です。表紙にもキュートな姿が描かれていますが、さらに文庫版ではタケダルーコさんにイラストを新たに描いていただきました!

また、同じく井上彼方さんが編まれた『SFアンソロジー 新月/朧木果樹園の軌跡』(社会評論社)には、「人間が小説を書かなくなって」という短編が載っています。タイトルの通り、人間が小説を書かなくなったあとの世界を舞台にした、世界観の異なる8つの小さな物語です。

出店ブースのWebカタログはこちらです!

【E-52】Rikka Zine『Rikka Zine Vol.1 Shipping』(既刊)

日本、ブラジル、インド、中国、韓国のSF短編小説プラス論考を載せたZINE『Rikka Zine』創刊号に、「きずひとつないせみのぬけがら」という短編を寄稿しています。奇妙な蝉の抜け殻からはじまる、ひと夏の思い出の話です。(そういえば、この短編が中国語訳された件をブログにも書いておかないと……)

収録作品など詳細はWebカタログをご覧ください。

【J-04】未確認電波帯『貝楼諸島へ』(既刊)

架空の島々を舞台にしたアンソロジー『貝楼諸島へ/貝楼諸島より』。こちらは2分冊になっているのですが、その『貝楼諸島へ』のほうに「跡地だった場所」という掌編を寄稿しています。失踪した友人をマッチングアプリで偶然見つける話です。

出店ブースのWebカタログはこちらです!

というわけで

以上、よろしくお願いいたします……!

冷やし中華の容器を洗う

冷やし中華の容器を洗う

 

 はじめて食べるコンビニの冷やし中華はたいへん美味であったが、問題は後片付けだった。プラスチックの容器を捨てる前に洗わなければならないのに、まったく水が出ないのだ。

 目の前の蛇口は、まあたらしい公衆トイレの洗面台によくあるような蛇口だった。いわゆる自動水栓というものであり、上げ下げするレバーも、ゆるめたりしめたりするつまみも付いていなかった。代わりに搭載されているのは何らかのセンサーで、蛇口の口もとに手が近づくと自動で栓が開き、反対に遠ざかると自動で栓が閉まるつくりになっているという。

 しかし、さきほどからわたしは蛇口のしたにふたつの手のひらを差しのべつづけているのだが、いっこうに水の出てくるようすはない。

 本来なら、差しのべられた手のひらを目がけて、蛇口の口もとから水が飛びだしてくるものだと聞いている。飛びだしてきた水は、ふたつ合わせてお椀のかたちをした手のひらの、その小指と小指の境目あたりにぶつかる。ぶつかったはずみで手のひらはわずかにしたに押され、押されてできた空間をおぎなうようにして水が流れこみ、そのまま手のひらからこぼれおちていく。人工の大理石でできた流し台のボウルに広がって、じぶんの重みでボウルの中心に戻ってきて、勢いあまってまた広がって、をくりかえし、やがて中心の穴に吸いこまれていく。そうしているうちにも蛇口からは水が飛びだしつづけ、蛇口の口もとと手のひらとの間には水の柱が立ちあがる。はじめのうち、柱のまわりだけは水がたまらずにくぼみができているが、すぐにそのくぼみも埋まってしまう。手のひらについていた小便のしぶきはもののみごとに押し流される。そうなるはずだった。

 洗面台の前で考え込んでいると、後ろで扉のひらく音がした。振り向くと、両目を大きく見開いた男が立っていた。

 そこでわたしはひらめいた。

 次にわたしが差しのべた手のひらはひとつきりだった。ひだりの手のひらだ。

 手のひらは熱をもっていて、ねらいを定めることなく、めったやたらに赤外線をはなっていた。蛇口に搭載されていたのはどうやら赤外線を感知するセンサーで、左手のはなつ赤外線をとらえ、蛇口内部のしくみによって栓は開かれた。手のひらの数がふたつでないといけないと思っていたが、そういうことではなかったようだ。

 蛇口の口もとから飛びだしてきた水がぶつかるまえに、わたしはひだりの手のひらを音もなく引っこめた。からぶった水のかたまりは、じかに洗面台のボウルへと流れこもうとしたが、そのまえに別のものが立ちふさがった。

 わたしが差しのべた冷やし中華の容器だ。

 冷やし中華の容器はとうめいなプラスチックでできていて、こい色をしたタレが底にたまっていた。こまかい段差がたくさんあるので、タレがよくからみつくのだ。きいろい玉子焼きのかけらもへばりついていた。

 ひだりの手のひらの代わりにあらわれた冷やし中華の容器のなかに、からぶった水のかたまりはおさまりよく流れこんでいった。

 冷やし中華の容器は冷えていて、赤外線をはなっていなかった。いっぽう、熱をもっていたひだりの手のひらは、蛇口のしたから遠ざかっていた。したがって、蛇口内部のしくみによって栓は閉められ、水はそれきり飛びだしてこなくなった。

 冷やし中華の容器にたまった水は、容器ごとゆさぶられて、ちいさな渦をかいた。容器の底からはがれた玉子焼きのかけらが、渦に巻きこまれてくるくると回った。

 しばらくくるくると回ったあと、玉子焼きのかけらは、まわりにあった水のかたまりごと、冷やし中華の容器ごとまっさかさまにひっくり返された。水のかたまりは洗面台のボウルに広がって、じぶんの重みでボウルの中心に戻ってきて、勢いあまってまた広がって、をくりかえし、やがて中心の穴に吸いこまれていった。玉子焼きのかけらは穴のふちにへばりついた。

 冷やし中華の容器はすっかりもとのとうめいな姿をとりもどしていた。きれいに洗いおわったため、何度かしぶきをとばしたあとで、容器をボウルから取りのぞいた。穴のふちにはまだ玉子焼きのかけらが残っていたが、そのままほうっておいた。容器はきれいになったが、洗面台のボウルはよごれたままだった。

 さきほど差しのべたひだりの手のひらももう不要なのでボウルに捨てた。まだ熱をもっていて、赤外線をはなっていた。わたしのとは大ちがいだ。蛇口の栓はふたたび開かれ、口もとから水が飛びだしてきた。

 ひだりの手のひらがすっかり冷えきるまで、ずっと水は流れっぱなしだった。

「造花だったらどんなによいか」梗概

造花だったらどんなによいか(梗概)

 世界中でデータが増え続け、情報ストレージの枯渇が危惧される近未来。落合輝(あきら)は太陽系内に発見された原始ブラックホール(以下、PBH)を大容量情報ストレージとして活用する研究をしていた。しかし輝の母は彼の仕事に理解を示さない。父の死去以来独居する母は陰謀論に嵌り、ブラックホールなんて本当は存在しないと言い張るのだ。

 ある日、輝は同僚のペリから相談される。分析中のPBHに、すでに何らかの「メッセージ」が格納されていたのだという。「私は花を見た。違う、前から知っていた!」と声を上げるペリに輝は母の姿を重ねる。

 ペリは休暇をとらされ、輝はPBHの観測データを引き継いだ。理論上、PBHに吸い込まれた物質が持つ情報は、ホーキング輻射によって生成・放出される光子の状態としてPBHの外に戻ってくる。しかし観測データの解析結果からは、ペリの言う「メッセージ」らしきパターンは見つからなかった。

 やがて輝は、ペリが観測データからホーキング輻射のシミュレーションを作成していたことを知る。対外的なプレゼンに使う、PBHまわりの挙動を再現したVR映像だ。VR映像を再生し、仮想空間に映し出される光の粒の奔流を目の当たりにした途端、骨組みだけの花とでも形容すべき像が輝の脳裏に浮かんだ。つづいて花びらや葉のテクスチャ、手ざわりやにおい、そして深い悲しみ。その花を昔から知っているような感覚に襲われた輝は、慌ててペリに連絡をとった。

 輝とペリは、PBHから放出された情報がVR映像を通して自分たちの脳に書き込まれたのだと考えた。異星の知的生命体による種のアーカイブだという輝の仮説に対し、これはウイルスだとペリは主張する。「何者か」は意図的に花の情報を脳に植えつけ繁殖させようとしている、あるいはこの花の情報自体が「何者か」かもしれない、と。

 輝はウイルス説に納得しつつも、植えつけられた深い悲しみが呼び起こす「多くの者に花を配らなくては」という衝動に抗えない。ついにはペリの制止を振り切ってVR映像を研究所のバーチャルオフィスから持ち出してしまう。

 母の住む集合住宅へ逃げ込んだ輝は、父の遺影のそばの仏花を見て「メッセージ」の真意を悟った。それはアーカイブでもウイルスでもなく、大昔に滅んだ「何者か」による哀悼の意だ。死者に花を供える風習を知る輝とペリは、「何者か」の滅びゆく仲間たちへ向けた哀悼の意を、存在しない花のイメージとして受け取っていたのだ。

 その後、輝がVR映像を世に広めることはなかった。真意を悟ったいま、「何者か」の哀悼の意へ向き合うには自分とペリの二人で十分だと思い、衝動は薄れていた。

 しかし、ときおり輝は考える。もしかすると、我々人類が宗教や民族を越えて死者に花を供える風習をもっていることそのものが、古来よりPBHから放出されている「メッセージ」を知らずに受け取りつづけた結果なのではないかと。