SF創作講座第4期第3回課題の梗概感想メモ(その1)

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他の受講生の方々がブログやTwitterやnoteで感想を投稿しているのを見て、自分もやってみようと思いました。特に今回は講義後の懇親会に参加できなくて感想を直接話す機会がなさそうなので、文章に残しておこうかと……。

単なる読み落としや思い込み、勝手な実作への要望などが多々あるだろうと思います。すみません。

この記事では梗概38作中の前半19作(天王丸さん~村木さんまで)について感想を書いています。後半の感想はのちほど別記事で書こうと思います。

 

天王丸景虎『52ヘルツの虚鯨』

  • まず、表紙がかっこいい。実作で繰り広げられるであろうスケールの大きな戦闘描写(テッド・チャンの「理解」!)もワクワク度が高いです
  • 実作では、兄の心境の変化(過去に何かあり引きこもる→妹のピンチを救うために戦う→妹とのつながりを断つ、の流れなど)をもっと詳しく知りたいです

 

稲田一声『女の子から空が降ってくる』

  • 自作です
  • あとからどんどん瑕疵が見つかります

 

ひろきち『最後のコハダ』

  • 失った小指をエンガワの皮で補うというエピソードが凄まじくて好きです。このシーンだけ絵柄が違うぞ……! って感じです
  • 序盤に出てきた役所や流山組が終盤の展開に絡んでこないのは、ちょっとだけもったいないような気がしました

 

吾妻三郎太『傷を舐めあう幻』

  • これは、犬と猫は(たとえば青島の猫みたいに)何十匹もいるということなのだろう、と読みました。過疎地に残された犬と猫、ビジュアルで魅せるものがあります
  • 電脳空間から現実への干渉規制があるなか、電脳上の人々が捨てられた動物の面倒を見るという特区をどう設立するのか、そのからくりが知りたいです

 

今野あきひろ『おまえは犬のように吠えたのか?』

  • ヒーローは実在するし悪の結社と実際に戦っているけれど、その戦いが興行みたいになっている、という世界観だと読みました。興行関係なしに自分の意思だけで戦うラストシーンがアツいです
  • 7月の講座での新井先生の発言や8月ゲスト編集者の溝口さんのツイートによると、どうもゲストの方には梗概・実作の印刷物が送られているようです。動画はQRコード化したリンクを添えた方がいいのかもしれません(それで視聴してもらえるかは分かりませんが……)

 

藤琉『メリークリスマス』

  • サンタクロースという概念の善悪が裏返ったかのような設定が面白く、サンタによって第二日本が変貌していく様子をぜひ実作で読みたいと思いました
  • 贈与中毒とは、贈与を受けることに依存してしまうこと? それとも、贈与したくてたまらなくなってしまうこと? 前者の場合なら、買い物中毒などにネーミングを倣えば「受贈中毒」とかになるのかな……と思いました

 

甘木零『君のしっぽが僕を知ってる』

  • 学園ミステリだ! 失踪する生徒たち、幽霊騒動、人為的変異体の噂など、魅力的な謎が次々と出てきてわくわくしました。犯人の告白が全校放送で筒抜けになるよう仕組んでいたというのも「そうそうこれこれ!」って感じです
  • 真相については、梗概ではすこし言葉足らずだったかもしれません。わざわざ隠蔽しなくても普通に穏便に退学させてあげればいいのに……と思ってしまいました(見当違いのことを言っていたらすみません)

 

中倉大輔『フード・オブ・ワンダー』

  • 少年漫画みたいな躍動感あるキャラクターが目に浮かんで楽しかったです。これぞ王道という感じでした
  • なんだかちょっとマフィアがかわいそうで、リンがすべきだったのはマフィアを壊滅させることではなく、調理技術を活用して得た金で輸送車を弁償することだったのでは……という気もします(もっともっと極悪非道なマフィアの描写があればバランスがとれるかもしれません)

 

夢想真『それはシアワセではありません』

  • これは感想交換会でも話したのですが、人間の躰を乗っとるのに腑抜けにする必要がある集合体意識がサトミの躰を乗っとることができたのは、なんらかの理由でサトミがすでに腑抜けに近い状態だったからだという説が浮かびました
  • この説を採用すると、サトルが『シアワセ』を破壊して人々に欲望が戻ったとしてもサトミだけはひとり助からず腑抜けのままで、これはどう料理してもぐっとくるシチュエーションではないか! と勝手に盛り上がってしまいました

 

古川三叶『ハロー、アリス』

  • 僕も指先ひとつで群衆を自在に操ったり翻弄したりしたい! という悪側の気持ちが湧き上がりました。絶対楽しい描写になるでしょうこれ
  • もっと主人公とアリスとの関係性にも切り込んでいったほうがいいのかなと思います。感想交換会で話題になったバディものによくある関係の深め方についても、なるほどと思いました

 

榛見あきる『魔女っ子ミントちゃん☆オーバーライド!』

  • 毎回「こういう社会や経緯があって、だから今こういう技術がある」という設定の組み立てがうまいな、と思います。ドローンによって空中投影されたヒロインというのも絵面が魅力的でした
  • 反政府組織に襲撃だと勘違いさせないためには空中投影映像(と録音された音声)さえあれば良いような気がして、主人公がリスクを冒してまでリアルタイムでアテレコしなくてはならない理由がもうひとつ欲しいと思いました(当該シーン、めちゃめちゃかっこいいです)

 

よよ『ポポイの触覚』

  • 「ポポイは、ププイを嫌悪していた」の辺りでどきっとしましたが、ハッピーエンドで終わってよかった! と思いました。個人的には、実作で「泣いた赤鬼」を超えてほしい気持ちがあります
  • 一方で、ポポイもププイも寓話のために簡略化された存在にすぎないのではないか、という印象もあります。この生命体の生態に何かSF的なしかけがあれば……とも思いましたが、生命体の生々しい描写をきわめる方向でもいけそうな気がします
  • あと、これは本当に些細なことなんですが、触覚→触角では

 

式『贄とオロチと』

  • 最後の「自分が殺されるところをカザシに見せたくないから、カザシを殺す」というギミックが面白いです。よかったら11月に募集開始予定の第2回百合文芸小説コンテストにも応募を!(前回の規定は2万字以内でしたが……)
  • 「救う命を選別している」というタツミの指摘については、できたら実作のどこかで決着をつけてほしいなと思いました

 

岩森央『Ground Island』

  • 現実上で進行するゲーム『Ground Island』の一見アナログなところが面白いと思いました。裏では虫型カメラロボットや、他にもいろいろな技術がはたらいているのでしょう
  • 梗概では、琴が信じる強さが何なのかつかみとれませんでした。琴が生き延びられたのは、共に過ごした路上生活者たちのサポートがあったからのように感じました(『ヒナまつり』のアンズのようなイメージ)。幼少期に琴が得たものと『Ground Island』が子供たちに与えるものとがどうつながっているのかがポイントなのかなと思いました

 

大塚次郎『白銀のクリアテキスト』

  • かつてのインターネットと幽霊と暗号化技術の組み合わせが好きです。取り合わせが奇妙だと一文一文におかしみがでてきますね。アピール文の内容も面白く、ぜひ実作に組み込んでほしいと思いました
  • ただ、梗概では「そこで私は「幽霊」の助けを借りることにした」以降の理屈がちょっと分かりませんでした……すみません……

 

一色光輝『ムタビリスの庭』

  • ビジュアルの描写と時雨のセリフ回しがかっこいいです(梗概で書くには文字数制限がきついですが……)。この作品の空気・雰囲気がしっかり伝わりました
  • 自分が何者なのかを知るために時雨と共に庭を出る決意をする少年ですが、庭を出る前に少年の出自が判明してしまうので、庭から旅立つ新たなモチベーションが欲しいところです

 

武見倉森『ゲームマスタ』

  • 幾重にも重なった脱出ゲームという構造が面白かったです。逆方向への移動手段もバグ技っぽくて好きです
  • できれば、いま梗概で書かれている結末のもうちょっと先まで読みたいです……!

 

比佐国あおい『繭玉のたゆたい』

  • 今まで書いたことのない時代ものに挑戦するというチャレンジ精神、見習いたいです。課題の説明文にも「正しさ、強さの意味は時代とともに変わる」とありますし
  • 「鵺が大地を荒廃させたのは、人間の醜い生業をむき出しにさせることで人間をかげは蝶から守護するためだった」という動機が面白いのですが、それなら何故かげり郷の人々は鵺の努力の甲斐なくかげは蝶になってしまったのか、うまい理由付けがほしいなと思いました

 

村木言『遺された角』

  • マウリの境遇が好きです。マウリの側にも、自分が愛した(そして自分のせいで死んでしまった)女性の娘に真実を告げ贖罪したい気持ちと、愛する幼子の命を救うためにすべてを隠し通してでも薬を手に入れたい気持ちとの間で葛藤があったのではないかと想像しました
  • エーネが復讐を誓ってから翻意するまでのスパンがやや短いように感じられました。その間の出来事が「一角様から話を聞く」のみ、というのが原因かもしれません