2020年の活動ふりかえり

どうも、稲田一声(17+1)です。

今年の8月ごろから近況報告的な記事を書こう書こうと思っていたのですが、ぼんやりしているうちに年の瀬になってしまいました。2020年の活動報告として、この一年で書いた小説+αをまとめたいと思います。

ちなみに2019年のまとめはツイッターでやってました。

 

①改名SF「変わったお名前ですね」

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SF創作講座第4期第7回課題「「取材」してお話を書こう。」に提出した短編です。13387字。

「わたし」こと嶺彩花(みね・あやか)は、七歳の誕生日に高熱を出して寝込んで以来、どうにも自分の名前がしっくりきません。しっくりこないどころか、長谷川留奈(はせがわ・るな)という名前こそがまさに自分の名前なのだと「目覚めて」いたのでした。どうして自分の名前なのに、自分で決めることができないのでしょうか?

梗概時点では「いま与えられている名前は自分を示すものではない」という嶺彩花の感覚(名自認?)がうまく伝えられず、実作を書くときに視点人物を変えたり原因らしきものを置いたりといろいろ工夫した覚えがあります。オチはもうちょっと別の形もありえたかも。同じ設定・別の登場人物でいろいろ書けそうな気もしますね。

②ファースト・コンタクトSF「きずひとつないせみのぬけがら」

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SF創作講座第4期第8回課題「ファースト・コンタクト(最初の接触)」に提出した短編です。8952字。

夏休みに父の実家へ連れてこられた前田和希(まえだ・かずき)は、散歩中に奇妙な蝉の抜け殻を発見します。普通なら背中側にあるはずの脱皮したときの破れ目がどこにも見当たらないのです。他にも似たような抜け殻はないかと探し歩いた先で、和希はワンピース姿の謎の少年・幸村洋(こうむら・ひろし)と出会います。

ブログタイトル回収回です(ブログタイトル回収回って何?)。梗概講評時に「あまりにテッド・チャンすぎる」的なコメントをいただいたため、だいぶギミックが異なる実作を書きました。なので梗概・実作を読み比べてみると面白いかもしれません。実作を書くにあたって、もっとしっかり 参考文献を読んでおきたかったですね。反省です。

③味覚×視覚SF「光子美食学」

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SF創作講座第4期第9回課題「「20世紀までに作られた絵画・美術作品」のうちから一点を選び、文字で描写し、そのシーンをラストとして書いてください。」に提出した短編です。12041字。

飛び込み選手の志尾徹平(しび・てっぺい)は試合中の事故で後頭部を強打し、脳挫傷により両眼失明……ではなく、見たものをすべて「味」として感じ取るようになってしまいます。視覚がすっかり味覚に置き換わってしまった徹平は、再び飛び込み選手として復帰するために特殊なリハビリをはじめますが……。

これはすごく面白い課題でした。マグリットの『Les Valeurs Personnelles(個人的価値)』という絵を題材にして、視覚が味覚に置き換わった徹平の見ている(味わっている)世界と現実世界を重ね合わせて絵に描いたら『個人的価値』になる、という趣向を思いついたところまでは良かったのですが、梗概提出時ではラストシーンしか考えていなかったのであとから設定やストーリーを組み立てるのが大変でした。

④人魚SF「接ぎ木の人魚」(第3回阿波しらさぎ文学賞落選作)

(未発表のためリンクなし)

第3回阿波しらさぎ文学賞に応募した短編です。賞の詳細は検索していただければと思います。4762字。

あらすじのうち穏当なところだけ抜き出すと、鳴門海峡の人魚の女の子が、オンラインゲームで知り合って好きになった人間の女の子と急に会うことになってしまい、慌てて美郷の狸や吉野川の河童の協力を得て両脚を手に入れるというようなお話でした。

たしかコロナ禍によってSF創作講座のスケジュールが大幅に後ろ倒しになっていたころにいきおいで執筆したような覚えがあります。

⑤未来の学校SF「視点ABC」(第1回かぐやSFコンテスト選外佳作)

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第1回かぐやSFコンテスト(テーマ:未来の学校)に応募した短編です。賞の詳細は検索いただくか、上記のリンク先をご覧ください。作品も読めます。3952字。

VR高校にて、おしゃれ好きで毎日個性的なアバターで登校しているAさん、人間嫌いで他人を深海魚の姿に上書きしているBさん、クラス担任という権限を使って現実の自分そのものを強制的に生徒に見せるC先生、それぞれの視点が交錯するお話です。

こちらも、SF創作講座のスケジュールが大幅に後ろ倒しになっていたころに執筆した覚えがあります(↑の記事の冒頭にもそんなことが書いてありますね)。残念ながら最終候補には選ばれなかったものの、選外佳作として審査員の井上彼方さん・審査員長の橋本輝幸さんのHonorable Mentionリストに挙げていただきました。やったね!

⑥マンガ物理学SF「おねえちゃんのハンマースペース」(第4回ゲンロンSF新人賞東浩紀賞)

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SF創作講座第4期最終実作(課題・テーマなし)として提出した短編です。35207字。

マンガやアニメのキャラクターの背後にときおり存在する、本来所持できるはずのないアイテムを出し入れしている謎の空間を俗に「ハンマースペース」と呼びます。まるでその「ハンマースペース」のように背中に見えない穴があって自由にモノを出し入れできる姉と、その穴の中に入ったために取り返しのつかないことが起こってしまった弟が、それぞれ世界を揺るがします。

SF創作講座の最終実作はそのままゲンロンSF新人賞への応募作になるのですが、こちらは第4回ゲンロンSF新人賞東浩紀賞を受賞しました。やったね!

⑦ 掌編「迷彩された星」(ブンゲイファイトクラブオープンマイク)

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BFCオープンマイクに投稿した掌編です。上記リンクの「083」番目の作品です。

「外敵から身をまもるため小説に擬態する耳なし芳一」というコンセプトで書きました。きっと、これだけ物語が集まる場ならうまく紛れることができるに違いないと思ったのでしょう、この掌編は。

その後、池田くんは元気だとわかったので良かったです。

 

⑧頭部落下SF「塚原くんと同じ顔」(第2回ブンゲイファイトクラブ落選作)

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第2回ブンゲイファイトクラブに応募した作品です。賞の詳細は検索いただくか、上記のリンク先をご覧ください。作品も読めます。2145字。

ときどき謎のぶよぶよとした大きな頭が降ってくるようになって久しいとある町に、その頭とそっくりな転校生がやってくる話です。

結果は予選落ちでしたが、個人的に気に入っている作品です。ブンゲイファイトクラブは本戦以外でもさまざまな盛り上がりがあったので、ちょっとだけですがその一部に関われて面白かったです。

⑨マンガ物理学SFパート2「Deadlineの東」 

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第三十一回文学フリマ東京にて頒布した、「マンガ物理学」というテーマの小説アンソロジー『息 -Psyche- vol.5』収録作です。上記リンクで通販がはじまっています。18000字くらい?

マンガ物理学(Cartoon physics)とは、たとえば「キャラクターが崖の端を通り過ぎてしまっても、当人がそのことに気づくまでは一切重力が働かない」というような、マンガやアニメでよく見られる奇妙な物理現象のことです。「おねえちゃんのハンマースペース」のハンマースペースもマンガ物理学の一種です(正確には”アニメ”物理学らしいですが)。

 本作「Deadlineの東」は、上記のツイートで説明しているように、右から左へと進むコマ割りの物語と、左から右へと進むコマ割りの物語があって、それぞれが左右から近づいていって、ぶつかって、交差していく話です。やってみたいアイデアをそのまま形にしたらめちゃくちゃなことになってしまいました。また、笹帽子さん主宰のリフロー型電子書籍化不可能小説合同誌『紙魚はまだ死なない』へのリスペクトも込められています。

⑩触感ASMRSF「あなたがさわる水のりんかく」

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こちらも第三十一回文学フリマ東京にて頒布されていました、ゲンロン大森望SF創作講座修了生有志によるSF文芸誌『Sci-Fire 2020』収録作です。上記リンクで通販がはじまっています。12000字くらい。

触感ASMRコンテンツを配信する白い立方体「乾タツミ」のお話です。ASMR(Autonomous Sensory Meridian Response)というのは、焚き火のパチパチ燃える音や囁き声、石鹸をナイフで薄く削る様子などといった特定のシチュエーションでの音声・映像がトリガーとなって、ある種の奇妙な心地よさが引き起こされる現象のことです。それの触覚版を(触覚デバイスを通して)乾タツミは配信していましたが、あることが理由で活動休止していたのでした。

たしか2018年のことだったと思いますが、文学フリマで自分のサークルとSCI-FIREのサークルが偶然お隣どうしで、名倉編さんがすぐそばで売り子をされていたりして、すごいすごいと友達と一緒にキャッキャしていた記憶があります。まさかその2年後にそこへ加わることになるとは……!

(番外)第5期ダールグレンラジオ始動

scifire.org

ダールグレンラジオというのは、「ゲンロン 大森望 SF創作講座」の提出作品について、非受講生が勝手に応援するポッドキャスト番組です。

SF創作講座第4期が終わって、さあこれからどうしたものかと思っていたところにお声がけいただき、同じくSF創作講座第4期を受講していた遠野よあけさんと一緒に第5期ダールグレンラジオのメインパーソナリティになりました。

今期のダールグレンラジオでは、SF創作講座第5期で毎月提出される梗概・実作を全部読み、ラジオで全作にコメントすることを目指しています。しかもおたよりコーナーまであります。そのため毎回めちゃくちゃ長時間の収録となり、とても大変ですが、今のところこの方針を変えるつもりはありません。よね?

上記のリンクでは、ゲストとしてSF作家のアマサワトキオさん・櫻木みわさんのお二人をお招きして、四人でおたよりを読んでいます。櫻木さん・アマサワさんの受講時の話や、創作についてのアドバイスなどいろいろお話していてSF創作講座受講生でない人でも面白いと思いますし、なにより収録時間が1時間10分とちょうどいい!ので、ぜひ聴いてみてください。

というわけで

2020年は、10作の掌編・短編小説を書きました。去年から続くSF創作講座をやりきるとともに、ダールグレンラジオという新たな挑戦にも取り組んだ一年でした。

みなさん、今年も一年お世話になりました。ありがとうございました。よいお年を!